モデルハウスの新しい形を考える
地域に根ざす工務店の新たな挑戦

安芸高田と東広島を拠点とし、地域に根付いた工務店である坂田工務店。
今後も地域の人に長く愛される工務店にしたいと考えていた代表の高原さんが新たに立ち上げた「モデルハウス建設プロジェクト」のブランディングに携わりました。
坂田工務店がさらに発展していくために「進むべき方向性」を定めるべく、このプロジェクトで私たちがどのようなサポートをおこなったのか、そのプロセスを紹介します。


プロジェクトの背景

坂田工務店は、広島県安芸高田市と東広島市に拠点を置く創業七十余年(1970年に法人化)の工務店で、主に天然無垢材を使用した個人向け木造住宅を手掛けています。
工務店とは、家を建てたい人から依頼を受けて設計から施工までを一括で行う会社で、大規模な建設会社と比べて、より密接なコミュニケーションをとって柔軟な対応を行うのが特徴です。坂田工務店も地域に根ざし、東広島のお客様を中心にした家作りを長年に渡って続けてきました。
そんな中、高原さんは今後も長く工務店を続けていくことを見据えた上で以下の課題を感じていました。

・お客様との接点が少なく、客層が固定化している
・天然無垢材を使用した高品質な木造住宅の魅力を伝えきれていない


坂田工務店には「営業部門」がなく、基本的には自社モデルハウスへの来場予約が窓口となっていました。モデルハウスは一軒のみで、完全予約制で一組づつ対応しているため、どうしても出会える顧客の母数に限界がある状況でした。加えて、OB顧客からの紹介から新規契約となるケースが多く、客層が固定化されている懸念もありました。
また、坂田工務店の得意とする天然無垢材の木造住宅の良さは、モデルハウスで実際に見て感じてもらえれば伝わるものの、見学前の段階では伝わりきれていないという実感がありました。モデルハウスの対応件数が限られることもあり、天然無垢材住宅の魅力の認知はまだまだ足りていないという現状でした。

そういった課題がある中で、高原さんは新しいモデルハウスを作ることを検討されていました。
その上で、既に所有しているモデルハウスとは違いを作りたい、坂田工務店の未来に繋がるものにしたい、という想いがあり、その部分のサポートとして私たちにお声がけくださいました。

現在所有しているモデルハウス

①改めて自社の強みを整理する

具体案を考える前に改めて自社を振り返って、強み・目標・競合・課題分析を行います。
通常はオーダーメイドのワークシートを使用するのですが、今回はスケジュールの都合もあって対話形式での自社分析を行いました。
その結果、以下の強みが見えてきました。

・経験豊かな大工職人を雇用し、設計から施工、アフターメンテナンスまで全て自社で行っている
・地域住民と密接な関係を築いてきた(地元広島を盛り上げたいという想い)


坂田工務店は、建物を施工する大工を正社員として自社で雇用しています。意外と思われるかもしれませんが、大工職人を自社で抱えるのは珍しく、外注の大工に依頼するケースの方が多いです。大工を自社雇用すると継続的に仕事を受注する必要が生まれ、教育や管理も自社で行う必要があり、経営としてはリスクも大きいのですが、坂田工務店は「より品質の高い家造り」と「お客様からの信頼」を最も大切なものと考え、強い想いを持って自社大工を抱えています。

また、坂田工務店は地元の方々との繋がりも大切にしてきました。エリアを広げ過ぎず、地元の方向けに住宅の完成見学会などのイベントを行い、一組一組丁寧に向き合って深い繋がりを築くことを優先してきました。そうした姿勢から、OB紹介から新しいお客様が生まれるという良い連鎖へと繋がっていました。
地元広島を盛り上げたいという想いも強く、その一つとして「広島県産の木材活用」へも取り組んでいました。広島県林業技術センターや地元のSGEC森林認証制度企業とタッグを組み、廃線となったトンネルで広島県産木材の天然乾燥を行うプロジェクトを実施するなどの実績があります。そういった広島の林業を活性化させていきたいという想いは地域住民のお客様にもメッセージとして届いていました。

②突破口になる新しい切り口を考える

坂田工務店ならではの強みが整理されてきたことで、新しいモデルハウスの切り口が見えてきました。
そして決定した方向性が「地元の人たちが集う、地域コミュニティとしてのモデルハウス」です。

決定に至るプロセスとして、
私たちは主に以下の役割を新しいモデルハウスに求めていました。

・新しい層の顧客(潜在顧客)との接点の場にする
・天然無垢材の魅力をより多くの人に体感してもらう

・自社大工の技術力をより近くで見てもらう

現在所有しているモデルハウスは、基本的には家を建てることを検討している個人のお客様向けとなっており、どうしても営業的なコミュニケーションになっていました。また、完全予約制で一組ずつ対応しているため、対応できる件数にも限りがありました。
そこで、新しいモデルハウスは、家を建てる検討をしていない方々とももっと気軽にふれあうことができる場にして、これまでよりも幅広い層に坂田工務店を知ってもらおうと考えました。顕在顧客だけではどうしても母数が少ないため、将来のお客様候補にもアプローチしていく狙いです。
また、これまで大工の技術を実際に見てもらえる機会は、施工時しかありませんでしたが、新しいモデルハウスでは大工の実作業をより近くで見てもらえるスペースを作ることに。そうすることで坂田工務店ならではの強みをしっかりとアピールすべきだと考えました。

③具体的なコンテンツを考える

モデルハウスの新しい切り口決定に至るまでは多くの議論をおこないました。これは商業的なモデルハウス・ショールームを作る作業というより、人々が訪れたくなるようなコミュニティスペースを作る作業となり、従来のモデルハウス作りとは全く異なるアプローチだったからです。従来型の方が契約確度が高く、契約までのスピードも早いのに加えて、工務店がコミュニティスペースを立ち上げるような事例もなかったため、決断には不安もありました。しかしながら、自社分析をしていく中で、これこそが未来に繋がる突破口になると考え挑戦することに決めました。

この後はコミュニティスペースの中身(コンテンツ)を考えていきます。
コンテンツを決めるにあたっての重要ポイントは以下の3点でした。

・定期的に人が訪れたくなる
・自社大工の実作業を生で見てもらえる

・住居以外の建築イメージを見せる

ただ場所があるだけでは集客はできません。そのため、多くの人に興味を持っていただいて気軽に立ち寄りたくなるようなコンテンツが必要でした。
また、このプロジェクトの狙いの一つである自社大工の技術力をアピールできるコンテンツも必要です。
加えて、既存のモデルハウスとの違いを作ると言う点で住居以外の建築イメージを見ていただく、というのも重要なポイントです。これまでの注文はほとんどが一般住宅だったため、事業者向けの仕事(オフィス・店舗など)も増やしていきたいという想いもあり、今回のコンテンツはその一つの事例にしていきたいと考えていました。

これらの点を踏まえて決定したコミュニティスペースのコンテンツがこちらです。

集客できるコンテンツとして、ギャラリーを作って定期的に展示を開催することにしました。地元の手しごと作家の展示などを企画し、地域の輪を広げていきます。展示以外ではショップスペースとしても活用し、住居用木材から生まれる端材を活用した「大工が作る木製雑貨シリーズ」を販売。大工の技術力を活かしながら、環境保全にも取り組んでいきます。
体験型工房では、参加型の木工ワークショップを実施します。参加者には楽しく木と触れ合っていただく体験をしてもらいながら、同時に自社大工の技術力も見ていただきます。
また、建物の周りには広い庭をつくることにしました。ここはフリーマーケットやカフェスタンドなど、自由なイベント用スペースとして活用していきます。
加えて、従来の住居型モデルハウスも用意し、確度の高いお客様へもしっかり対応できるようにしました。

④スペースの名前を決める

無事にコンテンツが決定したので、次はこの新しいコミュニティスペースの名前(ブランド名)を考えます。
会社名を考えると同様に、以下の点を意識していきます。

・ブランドの特徴を表現できているか
・オリジナリティがあるか

・覚えやすく、発音しやすいか

これらの点に気をつけながら、お互い沢山の案を出し合いディスカッションを行った結果、ブランド名が決まりました。
決定した名前は「KINIWA(キニワ)」。坂田工務店にとって最も大切な「木」を取り入れ、またこれまでのモデルハウスとは違って人が集う「スペース」であることを表現するため「庭」という言葉を加えました。また、子供から大人まで親しみやすく、覚えやすい音であることも意識しています。

検討したネーミング案の数々

⑤いよいよ、デザインフェーズへ

自社分析からスタートし、対話から突破口探しを行い、具体的なコンテンツを考え、ブランド名まで無事決定することができました。
ここまででブランディングフェーズは完了。いよいよデザインフェーズへと進みます。

KINIWAのデザインがどのように完成したのかはこちらで説明しているのでご覧ください。
ブランディングフェーズから見えてきたブランドの方向性を元に、ロゴ・ウェブ・サイン・ブランドムービーなどの全体のデザインに展開していきました。

⑥スペース完成→ブランディングの結果

デザインフェーズも完了し、2023年9月にコミュニティスペース「KINIWA」がスタート。
定期的に展示やワークショップ、フリーマーケットを開催し、想定していたよりたくさんの地域の方々と繋がることができました。
参加者同士の交流も生まれ、さらに繋がりが生まれたりと、コミュニティスペースとしての役割を実感しています。
受注面についても、想像以上に早い結果が現れました。KINIWAのイベントをきっかけに坂田工務店を知ってくださり、そこから新築契約まで至ることができました。新規契約数もKINIWAスタート前より増えていっているとのこと。代表の高原さんも「 KINIWAという別のブランドを作ったことが新しい出会いにつながった」と実感を口にしてくださっています。
しかしながら今回のプロジェクトはここからが本番、「場を育てる」フェーズがとても大事になっていきます。目先の利益よりも、長期的な目線で辛抱強くブランドを育てていくことが必要です。引き続き、私たちもブランディングとデザインの力で並走していきたいと思います。

プロジェクト概要


制作期間
ブランディングフェーズ:約3ヶ月
デザインフェーズ:約8ヶ月


制作物
ロゴ、ブランドネーミング、ウェブサイト、館内サイン、ロードサイド看板、ブランドムービー

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