構造設計事務所のリブランディング
教育という新たな切り口で未来を拓く

京都の構造設計事務所・旧1050Architects(法人化によりIN-STRUCTに社名変更)のリブランディング。
構造設計業界に課題を感じていた代表の東郷さんは、法人化を機に未来を見据えた新しい構造設計事務所を目指すため、リブランディングを決意。ブランド(会社)において最も大切な「進むべき方向性」を定めるために、ロゴやウェブなど“デザインをする前”の上流過程で、私たちはどのようなサポートをおこなったのか、そのプロセスを紹介します。


リブランディングの背景

1050Architects(法人化によりIN-STRUCTに社名変更)は代表である東郷さんが2018年に京都で設立した構造設計事務所です。
構造設計事務所とは、主に建築物の構造設計・構造計算・構造解析や耐震診断・補強設計を専門に行っている建築設計事務所のことを指し、構造設計の専門家のことを「構造デザイナー」や「構造家」といいます。構造デザイナーは建物の3大要素である「意匠」「設備」「構造」のうちの一つを担う、建物を建てる上で必要不可欠な存在です。
東郷さんは構造デザイナーとして働く上で、以下の課題を感じていました。

・業務量に対する設計料の低さ
・意匠設計者の下請け的立場になってしまうこと


構造デザイナーは建物を建てる上でなくてはならない存在ですが、業界全体として設計料が安く、業務量が多いというのが当たり前になっており、若い人たちが働きやすい労働環境とは言い難いようでした。その要因と考えられるのが建築業界の受発注構造です。

上図のように、構造デザイナーは施主ではなく意匠設計者(建築家)から仕事を受注するのが通例で、いわゆる下請けの構造になっています。これによってどうしても対等な関係を築くことが難しく、結果として設計料が安く、業務量が増えていく要因になっているのが現状でした。
東郷さんはこういった現状を自社経営のみならず業界全体の問題として捉えており、「構造設計の仕事自体は社会に誇れる仕事なので次世代の若い人たちが憧れるような仕事にしたい」という熱い想いを持っていました。
その想いに強く共感した私たちは「給与・労働環境・社会的認知の面で指針となれる構造設計事務所になること」を目標に、ブランディングを始めることになりました。

①まずは、改めて自身を知ることから

早速、課題を解決する具体的な戦略を考え始めたいところですが、私たちは具体案を考える前に必ず自己分析のフェーズを挟みます。なぜなら、会社・ブランドごとの考え方や個性、強みや弱みの内容によって、適切な手段は大きく異なるからです。
自己分析は私たちがオーダーメイドで作成するワークシートで行っていきます。

主なヒアリング項目

オーダーメイドで作成したワークシートの一部

②対話をしながら、より深くさぐる

シートを記入したらそれで分析終了、ではありません。ここからが分析の本番です。
記入していただいた内容を元に、今度は私たちから質問していき、今一度自分の言葉で答えてもらいます。この質問と回答を繰り返すことで、考え方や現状が深堀りされ、今まで自分では気づいていなかった点の発見など、視野が広がっていきます。
後ほど考えていく解決案のベースになるため、私たちはこの対話フェーズにしっかり時間をかけるようにしています。

外部からの視点を交え、視野を広げる

記入いただいた沢山のシート

③「突破口探しの3円図」を使う

ワークシートと対話による自己分析を2ヶ月にわたって行い、会社の強み・個性が見えてきました。
ここからいよいよ具体的な戦略を考えていくのですが、ここで気をつけるべきは会社の強み=戦略ではないということです。
いくら強みがあっても、好きではなかったり需要がなければ、本当の突破口には成り得ません。
需要があるけれど熱量を注げないことについても同様で、進むべきではありません。会社も「人」なので情熱がないものは長く続けられないからです。
得意であり、好きであり、需要があること、これら全てが重なったところが「本当の突破口」になります。(下図)
私たちはこの突破口探しの3円図を使って、分析結果を整理していきました。

3つの円が重なった部分が、本当の突破口になる

ブレスト形式で密なディスカッションを行う

④見えてきた突破口を戦略化

突破口探しの3円図を使い、ようやく戦略になりそうな突破口が見えてきました。
それは、当初は全く想定していなかった「教育」という切り口でした。
会社の課題に挙げていた「設計料の低さ」「地位の低さ」は業界全体の根本的な問題であり、その大きな要因として「構造設計」という仕事の認知度の低さがありました。その解決のためには、営業力・技術力の強化といった直接的な手法の前に、構造設計自体の権威性を高めてあげる必要性が見えてきました。
代表の東郷さんは複数の大学で長年に渡って講師経験があり、教育者としてのポジションもありました。また、定期的にオンラインサロンも開催し、構造設計を伝え広める活動を熱心にされていて、他の構造設計事務所にはない姿勢でした。
私たちは、この「教育への熱い想い」という突破口を元に戦略を考えていきました。
そして、決定した戦略が以下の二つです。

一つ目に、請負業務だけではなく社内外に向けて「教育」を行う事務所であることを押し出すことにしました。これによって構造設計の認知底上げを目指しつつ、優秀な人材を確保して事務所の権威性を高めていきます。
二つ目に、意匠設計者の”指示通り”に作業するだけの下請け仕事はしないと決めました。これはこれまでの業界慣例で考えると、仕事を失うリスクも高く、かなり勇気のいる選択なのですが、やはり下請け仕事では構造設計の地位向上には繋げにくいと考え、強い意志を持って決断されました。不安はあったものの、当初から意匠設計者とは密なコミュニケーションをとることを心がけ、構造の専門家として意匠サイドへのアドバイスも積極的におこなっていた東郷さんだからこそ、この戦略は実現できるという自信がありました。このように、二つ目の戦略も突破口である「教育への想い」が活きてくることになるのです。

教育という突破口からゴールに向かうまでのプロセス

⑤戦略を元に、会社名を決める

無事に戦略が決定したので、次は会社名(ブランド名)を考えます。リブランディングの場合は、名前はそのままというケースも多いですが、今回は法人化のタイミングということで会社名も新しくすることにしました。
会社名(ブランド名)はブランディングにおいて、非常に重要な要素です。その理由は明確で、会社名は一番最初に耳に入ってくるワードだからです。いわば会社の第一印象となる要素なので、適切なネーミングをつけることでより強いブランディング効果を得ることができます。
会社名(ブランド名)を決める際は以下の点を意識していきます。

・会社(ブランド)の特徴を表現できているか
・オリジナリティがあるか

・覚えやすく、発音しやすいか

これらの点に気をつけながら、お互い沢山の案を出し合いディスカッションを行った結果、新しい会社名が決まりました。

決定した会社名は「IN-STRUCT(インストラクト)」です。
STRUCT(構造)という言葉で第一に構造設計事務所であることを明確にし、それを「IN」していくことであらゆる建築物にきちんとした形で構造を取り入れていくことを表現しています。
加えて、INSTRUCTという単語には「教える」という意味があり、特徴である「教育」の側面も取り入れたダブルミーニングになっています。

⑥いよいよ、デザインフェーズへ

自己分析からスタートし、対話からの突破口探しを行い会社の戦略を決め、理想的な会社名まで無事決めることができました。
ここまででブランディングフェーズは完了。いよいよデザインフェーズへと進みます。
※要望に応じてコンセプト開発・会社ステートメント策定までの対応も可能です。

デザインがどのように完成したのかはこちらで説明しているのでご覧ください。
ブランディングフェーズで決定した戦略の反映を意識してロゴ・名刺・ウェブなどの全体のデザインに展開していきました。

⑦新会社スタート→ブランディングの結果

デザインフェーズも完了し、2023年4月に法人「株式会社IN-STRUCT」としてスタート。
ブランディングの効果を見ていくと、まず設計料を上げることができ業務量を抑えることができるようになったとのこと。
意匠設計者の指示通りに作業する仕事をやめたことが成功の要因です。通常の構造設計業務から一歩踏み込んだアドバイスと提案を行う姿勢をきちんと評価していただき、結果として単価アップに繋げることができました。
採用面においても新入社員2名を新規採用。ブランディングの効果もあって、IN-STRUCTの考え方に共感した人材に出会うことができました。
さらに教育面においても、早速出版社から出版の相談があり、現在企画を検討中。
この短期間でブランディングの効果が現れましたが、次世代の若い人たちが憧れるような構造設計事務所になるまでの道のりはまだまだこれからです。私たちもブランディングとデザインの力で引き続き並走していきます。

プロジェクト概要


制作期間
ブランディングフェーズ:約5ヶ月
デザインフェーズ:約6ヶ月


制作物
ロゴ、モーションロゴ、会社ネーミング、ブランド戦略図、名刺、コーポレートサイト

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